|『正信偈』学習会|仏教入門講座
天親菩薩造論説 歸命無碍光如来 依修多羅顕眞實 光闡横超大誓願 平成30年4月17日(火)
- 2018年6月27日
 天親は、インドの言葉ですとバスバンドゥと言い、世親という訳し方もあります。この方は仏教の歴史の中では唯識の大家とされています。唯識とは、私の見ている世界は全て意識の中にしかなく実体はないという思想で、前回までの龍樹を代表とする空の思想と並び、大乗仏教の二大思想の一つです。「造論説」の「論」とは、浄土真宗では『浄土論』と呼んでいるもので、正式な名称は『無量寿経優婆堤舎願生偈』といいます。「偈」とは『正信偈』も含めて、リズムをつけて発声するための詩のようなもので、インドでは古くはバラモン教の聖典『リグ・ヴェーダ』の頃から伝えられている形態です。これは日本でも、素読という学習法として取り入れられていました。『浄土論』はこの偈文と散文によって構成されています。「優婆堤舎」は注釈したものという意味で「論」と同意です。浄土真宗では五十回忌法要などで読経される『仏説無量寿経』を、天親が偈文と散文の形で注釈したものです。
 「歸命無碍光如来」の「歸命」は「南無」と同じです。「南無」とはナマスというインドの言葉で、頭を下げて身体を曲げるという意味です。「アミターバ」「アミターユス」というインドの二つの言葉を、音写で「阿弥陀」といいますが、意訳するとそれぞれ「無量光」「無量寿」となります。『浄土論』では「歸命尽十方無碍光如来」となっています。「無碍」とは、障りがないということですが、これは阿弥陀のはたらきを妨げるような条件は存在しないということです。『正信偈』では字数の関係で「尽十方」が省かれていますが、全ての方向、すべての人において、という意味です。宗教は基本的に道徳と繋がってますから、その道徳を守っている人と、守れなかった人とに分けてしまいます。仏教も初期はそうでしたが、天親はすべての人を助ける教えとして仏教を位置付けているのです。これは、仏教は助けるための条件を持たないと言う事です。さらに、親鸞聖人は「尽十方無碍光如来」を「尽十方」と「無碍」と「光如来」とに分けています。「光如来」としたのは、如来に光という意味を持たせるためです。光とは、自分自身を明らかにしてくれる智慧のことですから、如来とは智慧そのものを意味しているということで、その智慧はすべての人にもたらされるということです。
 次は「依修多羅顕眞實 光闡横超大誓願」です。御経の事をインドの言葉でスータラ(修多羅)といいます。「修多羅」によって、真実が見えるのが「顕眞實」です。「顕」とは「発見して分かる」ということです。「光闡横超大誓願」の「闡」は「明らかになる。開かれる。広まる。」ということですから「光によって、明らかになって、開かれて、広まっていく」ということです。「横超」と言うのは、親鸞聖人が仏教を四通りに分けているうちの一つです。これは親鸞聖人が善導の言葉をヒントに見いだされた仏教観になります。
 まず「竪」と「横」に仏教を分け、それぞれをさらに「超」と「出」に分けます。「横」は自分の努力では無い力によって救われるということです。「竪」は自分の力で一歩一歩目標に近づいていくということです。「超」はこの人生において救われるということで「出」は来世以降において救われるということです。ここでは「横超」です。「横出」とは来世以降に他力によって救われるという、法然上人以前の浄土教です。「竪超」は天台宗や真言宗のように、自分で修業して、この世で仏になるという教えです。真言宗の「即身成仏」は生きながらにしてミイラになるというものですし、天台宗の「即身是仏」は、この世の衆生は気がついていないだけで皆仏である、というものです。「竪出」は法相宗や華厳宗のように、自分で修業するのですが、とてもこの人生では終えることが出来ないために、来世以降も修行に励むというものです。
 「大誓願」によって「横超」という仏教が成り立つというのが天親です。この教えが無ければ、浄土教はただの気休めにしかならないのです。その重要性から『浄土論』は浄土三部経と並んで「浄土の三教一論」といわれています。『浄土論』では

「世尊、我一心に、尽十方無碍光如来に帰命して、安楽国に生まれんと願ず。我修多羅、真実功徳の相に依って願偈を説いて総持して、仏教と相応す」

とあります。ここに「仏教と相応す」とありますが、この「相応」するということが、すべての衆生を漏れることなく救う、という仏教の本意に「相応」するということです。そして「大誓願」の内容は、自らを凡愚と頷かせることによって、大悲の世界に翻させる願い、ということになるのです。







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