|インド仏教史|仏教入門講座
インド仏教史10
大乗仏教運動 -新しい仏教の流れー
- 2014年6月19日

1、 大乗仏教の興隆 


1)大乗仏教とは

 大乗とは「大きな乗り物」という意味のマハーヤーナというサンスクリット語の翻訳です。この言葉には、大きな教えである、多くの人々を救う教である、勝れた教えである、という三つの意義があるとされています。これは新しく興った仏教の一派が、説一切有部を中心としたそれまでの仏教を、小さな教え、一部の者だけを救う教え、劣った教えであるとして小乗仏教と非難し、自分たちに名づけた名前でもあります。釈迦以来の仏教が、釈迦の教えを学び習得するという言葉に対する学びであったのに対し、この新しい仏教の流れは、釈迦が説法をしたのはすべての衆生を救いたいという釈迦の意思のあらわれであるという、その願いに応える歩みであるとも言えます。その願いを慈悲、その歩みを菩薩道として、それまでの学問である智慧、その習得である修行と合わせた仏道が大乗仏教です。このような大乗仏教の根幹になる思想が「他人のために」という「利他」という発想です。これはジャータカにある多に施すという布施とは違い、他を悟りに導くという意味になります。これは、布施が、自らの無所有を実現するための行であったのに対して、利他は他を救うことが自らの救いに繋がるという菩薩行であるからです。

2)諸仏・諸菩薩の登場

 この大乗仏教が釈迦由来の仏教であることを主張するために、それまで伝わっていた経典以外に新しい経典が必要になってきました。それは慈悲や菩薩を説く教えであると共に、一般の人達にも分かりやすいように、教えを物語として語る経典です。そのためには、従来の経典の釈迦やその弟子、インドの神々以外に、新しい登場人物が必要になってきました。
 そこでまず登場したのが、十方三世の諸仏です。それまでも釈迦以前に過去仏がいたという説はありましたが、同時に二人の仏を認めることはありませんでした。これが大乗仏教になると多くの仏が生まれます。最初に生まれたのが東方の阿閦仏です。続いて西方の阿弥陀仏が登場し、未来の弥勒仏、東方浄瑠璃世界の薬師如来が続きます。また、それまで悟りを開く前の釈迦を指していた菩薩が、大乗仏教を歩む僧侶の呼称となり、さらに経典の登場人物になります。僧侶の例としては竜樹菩薩や天親菩薩などがあります。登場人物としては、観世音菩薩・文殊菩薩・普賢菩薩・勢至菩薩などがあります。

3)大乗の基本的な教理

 大乗仏教とそれまでの仏教で、教理の上での違いも出てきます。それまで魂の存在を否定する意味で使われていた「無我」(人無我)が、あらゆるものには自性がない(法無我)という意味になります。また、すべての人が仏になる可能性かあるという「仏性」という言葉も生まれます。慈悲も、それまでは仏道の一部であったものが、仏道そのものになります。慈悲とはすべてのものに対して差別なく向けられるものであることから、世間的に悪とされるものに対する救いが大きな問題とされるようになります。

2、新たな経典の編纂


1) 般若系経典  空を説く経典

 大品般若経(二万五千頌般若経)、小品般若経(八千頌般若経)、般若心経、金剛般若経、理趣経、仁王経、金光明最勝王経などです。般若経の原始的な形態は紀元前2世紀に存在したと考えられていますが、今のような経典になるのは2世紀頃です。ただし金光明最勝王経だけは、やや遅く4世紀頃に成立したと考えられています。
 私たちの心が執着を離れ清浄になることでこの穢土が浄土に変わることを説きます。そのために様々な戒律や行によって、自らを変えていくことが求められます。

2) 第1期大乗経典(1世紀~4世紀)
 
 ストーリー性の高い経典として作られた初期の大乗経典です。維摩経(在俗信者の維摩詰を主役にした経典)、法華経(天台宗や日蓮・法華宗が所依とする経典)、華厳経(華厳宗が所依とする経典)、大無量寿経、阿弥陀経、観無量寿経(浄土三部経、浄土真宗をはじめ浄土系の仏教が所依とする経典)などです。
 基本的には般若経典の教えを踏襲していますが、その教えはより複雑化しています。それぞれの経典が教えとして非常に高い完成度をもち、経典ごとに宗派が生まれるほどになります。

3) 第2期大乗経典(4世紀以降 )  唯識・如来蔵(仏性)思想の経典

 涅槃経、如来蔵経、勝鬘経、解深密経、大乗阿毘達磨経、楞伽経などがあります。唯識や仏性を説く経典です。空の思想から唯識へと変化することで、仏教が理論から感性へと変化して行きます。ここから生まれる禅宗系の仏教は、経典に拠らず師から受ける感性を重視する新しい仏教の流れとなります。

4) 後期大乗経典   密教の経典

大日経、金剛頂経などがあります。それまでの大乗仏教が言葉や文字によって広く民衆に伝えようとしたのに対して、密教は師から弟子へ文字に寄らずに悟りそのものを伝えることを基本にします。またこの世で悟りを得る「即身成仏」を説きます。
密教誕生の背景には、ヒンドゥー教によって押されぎみになった仏教が、ヒンドゥー教の要素を取り込むことによって再興しようとしたことがあります。しかし、結果的には、かえって仏教とヒンドゥー教の差別化が曖昧になり、衰退を加速させることになってしまいました。
 密教経典の特徴は、釈迦ではなく大日如来が中心になっていることと、仏教オリジナルの神である明王が登場することです。教えも、仏教とヒンドゥー教が合わさることで、さらに複雑なものになっています。

5)その他の経典 中国や日本で作られた偽作経典

 中国で作られたものに、大梵天王問仏決疑経、父母恩重経、盂蘭盆経、地蔵菩薩発心因縁十王経、清浄法行経、円覚経などがあります。お盆の行事や閻魔大王、三途の川などの話はこれらの経典から来ています。伝統仏教ではこれらの経典を重視しているところはありませんが、そのわかりやすさから広く流布されています。
日本でつくられた稲荷心経、十一面観世音菩薩随願即得陀羅尼経 、蓮華三昧経、錫杖経、五百大願経、延命地蔵経などもあります。








徳法寺 〒921-8031 金沢市野町2丁目32-4 © Copyright 2013 Tokuhouji. All Rights Reserved.